品質基礎知識
1. ISO9001のねらい・メリット
2. ISO9001とは
3. ISO9001の要求事項の解釈の仕方
1.1 はじめに
最近では、大企業のものとされてきた国内外の規格や制度(ISOなど)が、当事者(経営者)の意思に関わらず、
中小企業にも影響してきています。ISOの認証取得・維持には大変な費用と時間がかかると聞きます。
今後、弊社の目標としてISO9001の認証取得を掲げるにあたり、「ISOの認証取得は大変だ」といった問題を払拭でき、
経営ツールとしてうまく活用できるよう、本サイトに弊社の今後の経験してきたことなどを記録していこうと思います。
1.2 顧客満足の実現
ISO9001でいうところの「品質」とは「製品の品質」ではなく、「顧客満足」のことを指しています。
品質や製品の精度はもちろんのこと納期・価格など会社全体の仕事の質を高めていくことを要求されます。
<顧客満足を実現する為の要求事項>
・顧客満足を実現する為に社長の方針・思いが社員全員に伝わっているか
・具体的な目標を設定し、それを達成する為のシステムが構築されているか
・お客様の声に耳を傾け満足度が低ければ絶えず改善していかなければならない
このことからISO9001では「顧客を満足させる為の目標を設定し達成する会社になる」ことを要求していることがいえます。
1.3 目標を達成する為のシステムについて
品質・環境・経営などの様々なシーンで「仕事の基本」として活用されているのがPDCAサイクルですが、
ISO9001の要求事項としてもあげられています。
@ PLAN - 目標設定・計画立案
A DO - 目標・計画に則った活動を実施
B CHECK - 目標・計画の達成状況をチェックする
C ACTION - 次回に目標を達成する為の対策の実行
1.4 認証取得のメリット
<売上の増加>
公共事業や大企業などではISO9001認証取得企業を優遇するといった動きが広がってきています。
協力会社に認証取得を要求する場合もあり、受注を確保し同業他社との差別化を図るためには、
必要不可欠なものになっています。
また、ISO9001を効果的に運用すれば会社の問題点の改善や、顧客満足度の向上により受注拡大による
売上げの増加に結びつきます。
<コスト削減>
ISO9001の認証取得によってコストが増加してしまっているケースが少なくありませんが、
過剰なルールや重複している資料をを極力なくし、記録類等をシンプルなものにすることによって
運用の際の負荷を軽減することができます。
また、業態改革を行うことにより社内の問題点の洗い出しや解決ができ、コストダウンにつながります。
2.1 ISO9001の要求事項
ISO9001は8章構成になっていてそのうち4章から8章までが要求事項になっている。
それぞれの章に複数の要求事項が存在する。
4 |
品質マネジメントシステム |
4.1 |
一般要求事項 |
目標・計画を達成する為のシステムの構築やマニュアル等の作成、文書管理や記録管理に関する要求事項。 |
4.2 |
文書化に関する要求事項 |
5 |
経営者の責任 |
5.1 |
経営者コミットメント |
社長の役割・責任などについて、方針・目標の策定・社員への周知・責任と権限の明確化などが要求されている。 |
5.2 |
顧客重視 |
5.3 |
品質方針 |
5.4 |
計画 |
5.5 |
責任、権限及び コミュニケーション |
5.6 |
マネジメントレビュー |
6 |
資源の運用管理 |
6.1 |
資源の提供 |
目標・計画を達成する為のシステムに必要な資源等を準備、維持する事を要求している。社員の能力開発、設備機器のメンテナンス、適切な作業環境の整備が要求されている。 |
6.2 |
人的資源 |
6.3 |
インフラストラクチャー |
6.4 |
作業環境 |
7 |
製品実現 |
7.1 |
製品実現の計画 |
営業・設計・購買・製造(施工、サービス提供)・アフターサービスなど、基幹業務に関する要求事項。 |
7.2 |
顧客関連のプロセス |
7.3 |
設計・開発 |
7.4 |
購買 |
7.5 |
製造及びサービス提供 |
7.6 |
監視機器及び 測定機器の管理 |
8 |
測定、分析及び改善 |
8.1 |
一般 |
顧客満足度の調査や目標の達成状況の把握、製品検査の実施などを求めている。 また、それらのデータを分析して目標の達成・顧客満足の実現に努めることを要求している。 |
8.2 |
監視及び測定 |
8.3 |
不適合製品の管理 |
8.4 |
データ分析 |
8.5 |
改善 |
2.2 ISO9001が求めていること
@ 社長方針
社長は自身の経営理念に基づき、方針を定め、社員への周知を徹底する。
A マネジメントシステムの構築
目標を必ず達成する為のシステムをPDCAサイクルを活用し構築・運用する。
B 社員の能力開発
社長方針の実現・目標達成の為に、人材育成や能力開発の仕組みを整備する。
C オペレーションの見直し
設計図面のチェック・協力会社の評価・製品の検査など、各業務で実施すべきことが規定されている。
部門間のコミュニケーションの円滑化なども必要。
D インフラの整備
文書管理や記録管理、問題発生時の再発防止手順や予防処置手順などが必要になる。
また、内部監査や顧客満足度調査の実施が要求される。
2.3 ISO9001の認証取得をする為の4つのポイント
2.1で記述した要求事項は大きく四つに分類できる。
@ 目標を達成する為のシステムの構築・運用
品質マネジメントシステムの核となる部分
A 仕事の手順の文書化と実行
不良品管理、再発防止、予防処置、内部監査、文書管理、記録管理の六項目がこれに該当します。
これらについてはマニュアルを作成し、実行していかなければなりません。
B 仕事の実行
営業、設計、購買、製造といった基幹業務や能力開発の仕組みなどに関する要求事項。
C 仕事の結果(記録)の作成
検査記録など、実施した証拠として記録を残さなければなりません。
※注意:規格からは「何をすべきか」は決められているが、
「どのように実現するか」は決められていません。
プロセスに関しては企業独自の方法・判断に任されています。
3.1 シンプルに考える
2.3でも既述したように規格からは「何をすべきか」は決められているが、どのように実現するか」は決められていない為
企業によって色々な解釈があっても不思議ではありません。
そうした時に最も重要なのは運用時の負荷を考え細かく作り込み過ぎないことです。
@ 難しく、複雑に考えずに単純な規格としてとらえる。
規格には作業のプロセスなどの詳細は記載されていない為、
どのようなプロセスを踏もうと企業の自由なので単純にとらえましょう。
例)データの重複するような帳票類を何個も作るのではなく、一表にまとめるなど・・・・
A 企業の解釈が絶対・審査員の解釈が全て適切なわけではない。
業務の流れ・知識・技術を熟知しているのは審査員ではなく企業であり、社員で
審査員は一般的なレベルでしかわからない。
審査員の解釈に疑問を持った場合は、審査時に徹底的に議論した方が良いでしょう。
B すべての要求事項を網羅する必要はない。
規格要求事項「1・2 適用」で7.製品実現の顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たす製品を提供する
組織の能力に何ら影響を及ぼさないものは除外の対象となると記述されています。
また、お客様からの要求がない、自社で決めていない、法規制の要求がないものであれば
要求のすべてを実現する必要はありません。
C 本などの丸写しは企業の実態とかけ離れたものになってしまう。
参考程度にするのが望ましいでしょう。
※注意:A・Bに関しては審査員に質問された時の為に理由・根拠を明確にしておきましょう。
3.2 序文
序文にはISO9001がどういうものかが示されていて、
それを事前に理解しておくことで実態との乖離や過剰な文書作成を事前に回避できる。
序文ではさまざまな品質マネジメントシステムが構築されてもよいと記述されている。
その理由は、企業によって下記の5つが異なる為である。
@ 市場動向(変化するニーズ)
A 自社の目標
B 提供する製品
C 自社の業務内容(プロセス)
D 組織の規模及び構造
同じ業種・業態・規模の企業であっても異なるのは当然だという考え方で、
品質マネジメントシステムはオリジナルであるべきで、
市販の本やビデオのまねをするのは取得後に後悔することになるなってしまいます。
3.3 適用
適用には、要求事項を除外してもよいという例外を規定している。
@適用除外の要件
a.組織や製品の性質上、該当しない
b.お客様の要求に無い
c.法的要請などの規制要求に無い
A適用除外の範囲
除外可能なのは、「7製品実現」の要求事項に限定されている。
「5経営者の責任」などは除外できない。
B適用除外の効果
要求事項はすべて実現しないといけないと思いがちですが、
業種・業態によって必要か不必要化を適切に判断し、無意味な文書・仕事を
作らないようにする。
C留意事項
適用除外すべきか迷うケースがあります。例えば、部品メーカーにおける
金型の設計を「7.3 設計・開発」に該当させるかという点です。
最終製品は「部品」である為、除外という考え方も有ります。
適用による自社のメリットと記録の作成などによる付加とのバランスを
踏まえて結論を出し、審査登録機関への事前確認をとることをお勧めします。
3.4 一般要求事項
規格要求事項の最初であり、「全体の総論」となります。
この要求事項の実現の為の文書は不要です。
ここで重要なのは「品質マネジメントシステム」という言葉の意味を
理解することです。規格の定義をわかりやすく表現すると、
「社長が立てた方針を、社員一丸となって達成するための仕組み」といえます。
「ISO9001=文書管理重視」と理解している方が多いと思いますが、
実際はそうではなく、「ISO9001=目標必達カンパニーへの変身ツール」と
理解してください。社長方針を設定し、それに基づいた年度目標を設定する。
その目標を達成するために、全社員がPDCAのマネジメントサイクルを回していく。
目標の中に、売上、利益、コストダウンの目標を織り込み、
マネジメントサイクルを回すことで、「より利益の出る会社」に変わることができると思います。
3.5 文書化に関する要求事項
文書化に関する要求事項で、手順の文書化は必要ないが、「品質方針」、「品質目標」は文書化が要求されている。
<規格の品質マネジメントシステムに必要な文書>
・「文書化された手順」六種類の文書
・業務及び管理を効果的に実施していく為に、必要な文書であり、
基幹業務のマニュアル・手順書など
・「社長方針・目標」、「品質マニュアル」、「記録」
基幹業務のマニュアルを何種類作成するのかは、極めて重要になります。
<判断における重要なポイント>
・「チェックリスト」や、口頭だけで規格の要求が実現できる業務のマニュアル化は
必要ない。
・人により仕事のやり方がばらばらな業務を標準化し、生産性の向上を
図りたい場合や、新入社員の教育用として必要な場合マニュアルを作成する。
※規格では仕事を詳細に文書化する必要はない。人の力量や仕事の内容などによって詳細さは変えるべきです。
3.6 品質マニュアル
「品質マネジメントシステム(QMS)に関する憲法」である「品質マニュアル」が必要になる。
QMSにおける最上位に位置する文書です。
<品質マニュアルの基本要件>
・QMSの適用範囲および適用範囲外と範囲外とした理由
・手順の記述又は詳細マニュアル名の引用
・業務の流れおよび関連
<経営への活用>
配布により、社長方針や目標などが開示され、販売促進や社員の有言実行の支援に活用できる。
3.7 文書管理
文書管理で重要なのは最新版(最適版)が使用できるようにしておくことです。規格では次のルールを定めることだけを要求している。
1.文書の承認と発行
2.改定の際の承認および改訂版の識別の実施
3.適切な版の文書の利用
4.読みやすさ・区別のつけやすさ、検索性
5.外部文書の識別および配布管理
6.廃止文書の誤使用
※継続的改善が規格の本質で、必要な人に必要な文書がしっかり配布されていれば問題ありません。
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